「振袖決まった？」が女子の間で飛び交うようになる時期にも、成人式について考えることを完全に後回しにしていた。というのも、最悪(失礼)母の振袖があったことも理由のひとつだった。細部まで柄をみたことはなかったが、タンスの中に眠っていることは知っていたし、母もふざけて「◯◯が着るかもしれないからね〜」と言って、断捨離をサボっていた。が、母の中では、その着物は古めかしく感じていたようで、私の成人式には気に入ったものを着て欲しいようだった。
ギリギリすぎると予約が取れなくなる、という噂を聞き、それはそれでめんどくさい！と流石に写真館を調べ見学の予約をとった。電話の際、母の振袖があることも伝え、暗にレンタルしないかもしれないことを匂わせつつ向かった。その写真館には、着付けとヘアメイク、前撮り、式当日の着付けとヘアメイク、の全てがそこで済むコースがあった。前撮りと当日の着物は、持ち込みであれば変えてももOKということで、予想外に２着の振袖を着るチャンスに恵まれた。持参した母の朱色の振袖を着付師の方が褒めてくれた。レンタル一覧から、せっかくなので印象の違った色をと、濃紺と紫の着物を候補に選んだが、プラス１着、似合うかもしれないと濃い赤の着物を着付師さんが見繕ってくれた。
鏡の前で合わせてみると、一覧で見た印象とは驚くほど違っていた。紺や紫の着物は、柄も生地の輝きも素晴らしいのに、私に合わせると、顔色がなぜかくすむ。その着物に魅力を感じていた私は、それでも何度か合わせて見たが、やはり違う。試しにと合わせてもらった赤が、若々しく、結局一番しっくりきた。さらには古風な母の着物も、地味ながらも馴染んでいた。どちらも同じ暖色ではあったが、この色が私には似合うようだとその時知った。帯や髪飾り等の小物をどんどん合わせ、２着の印象を変えてくれた。母の振袖もなんだかレトロモダンな組み合わせになり華やいだ。
後世に残すであろう前撮りは、なんとなく、母の振袖を着た。前撮りの日、着付け室から出てきた私の姿をみた母は嬉しそうに見え、何度もスタッフの方にお礼を言った。私にも娘ができたら、押し付けがましくない程度にこの着物の魅力を伝えたい。当日はといえば、ヘアメイクさんの強い意見で、思っているメイクよりも濃く、髪型も派手では？と思うくらいの仕上がりにされたが、式に出席してそれが正解だったことに気づいた。周りの子達の遊び心ある着飾りやヘアメイク、ネイルに圧倒されたからであった。
この振袖に負けないヘアメイクに仕上げてくれたスタッフの方に感謝。我ながら外でみると、このまま京都の街をねり歩いてもよいのでは？というくらい似合っていたように思う。こうして無事、成人式というビッグイベントは心が華やいだ思い出として残すことができた。